【第8話】フェイスブックの活用法3


フェイスブックの活用法3
ーモヤモヤの晴らし方ー

そして講習当日を迎えた。

「兄さん、大分はいりましたねえ」
惣菜屋の武生が話しかけてきた。

「そうだなあ、思ったよりは入ったかな、、」

ざわついた会場、100人入る商工会議所の会議室に五十五、六人。

場所を借りた商工会議所が相乗りをして人を集めたせいもあって、商店街以外の人も二十人ほどいた。

どの人も商売をやっている人だ。

商店街の人間は全部で約60人近くいるはずだが、結局来たのは30人強程で、半分ぐらいの人間しか来ないのは残念だがしょうがない。

残った半分はお年を召した方がお店をやられている場合がほとんどで、こういったことに興味を持てというのも無理な話だ。

「遅くなり申し訳ございません。」
開始30分前に三木が現れた。

「おっ、お疲れさん、言われたとおり、資料は全ページコピーしておいたよ。しかし20ページ以上あるのを人数分は大変だったよ、、
これ、この間おれがもらったのとほぼ同じだと思うけど、登録から基本的な使い方は全部書いてあるじゃん、ここまで必要無いんじゃない?」

「お手間をかけて本当にすみません、これは本を買う必要を無くすためです。
多分こういう所で一回講習を受けたぐらいじゃあ、その瞬間はなんとなく覚えた気になるかもしれませんが、絶対覚えられないんですよ。

かといって、そのあと、『フェイスブック』の使い方の本を買いに行くかというと、たぶん行かないと思います。お金もかかるし、どれを買ったらいいか解らなくなるかもしれません。

そうすると、本来の目的である『みんなにフェイスブックを使ってもらう』という目的から、離れていってしまうんですよ。

だからせめて基本的な使い方だけでも文章化して届ける必要があります。
ちょっとの手間でもかけたほうが目的が達成できるなら、かけるべき。
大丈夫、手間を掛けてもらった分は必ず返って来ます。」

何がどう返ってくるんだか、、、、まあしかし、なるほど、、、、確かに本は買いに行かないだろうな、、、と、納得した。

開始5分前、寛和さんが話しかけてきた。

「一郎ちゃん、開会の挨拶お願いしますね。」

「えっ、自分がですか?!」

「あたりまえでしょう、、あなたが発起人なんだから」

まったく予想していなかったのでかなり焦った。

「いやっ、、あの、寛和さんやってくれませんかね、、自分、こういうの苦手で、、、」

「だったらなおさら経験しておいたほうがいいですね。商店街のメンバーがほとんどで身内みたいなものだから丁度いいでしょう。」

「えっ、、いや、、、」

「よろしくお願いしますね。」

と、言って早々に去って行ってしまった。取り付く島もない、、

三木はニヤニヤしている。
この野郎、覚えてやがれ、、、

ドキドキしたまま定刻となり、緊張したまま壇上にあがった。
壇上に上がるなんて何年ぶりだろう、僅か数センチの高さなのに緊張する。

壇上で振り向くと沢山の視線。

一気に頭が真っ白になる。
あれ、、何を話そうと思ってたんだっけ、、

まずはお礼の言葉から言わないと、、

鼓動が早くなる。
うまく言葉がでてこない。

「あっ、、あの、、、」
鼓動がさらに早くなる。

――――もう、素直に思ったことを言おう。
そう思うと腹が決まった。

「ずっとモヤモヤしてました。」

予想外の出だしに聞いている人がシンとなった。

「自分のお店が売れないのもそうですが、商店街も活気を失っていくこと、
何かをしなければと思っていても、どこから手をつけていいかも解らない。

頭の中や行動は空回りばかりで、何をやっても上手くいかない。

今日はですね、私が無理を言ってこの会を開いてもらいました。

私は、今日の講師をしてくれる三木、、、、、せんせい、、、にですね。
この数ヶ月間『情報』についていろいろ教わりました。
それで一つ気づいたことがあるんです。

みんな物が売れなくて困っていると思います。うちも困ってます。
でもそれは『情報』を出していないからかもしれないんです。

うちは『情報』を出すという事を皆さんより少しだけ先に教わりました。

それで、少し、、ほんの少しづつですが、お店が変わってきていることを実感するようになりました。

その中でも、一番効果を感じたのは今日講習をしてもらう『フェイスブック』です。

『フェイスブック』って何だ?って思われる方もいるかもしれませんが、自分はこの数ヶ月使ってみて、これがもしかしたら商店街復活の切り札になると思っています。

いや、大げさじゃなくて本当に、、、

そう考えたらモヤモヤが晴れてきました。

それで、いてもたってもいられなくなって、今日の会を開いていただきました。
きっと皆さんの役に立つと思っています。

どうぞ、今日はよろしくお願いします。」

会場に拍手が鳴った。
急に安堵する。

決して正しい開会の挨拶ではないだろう。でも素直に話せたと思う。
段をおりる。

入れ違いに三木が揚がってきた。
すれ違いざまに、

「すばらしい挨拶でした。そのモヤモヤきっと晴れると思います。」
と言った。

壇上に上がった三木は落ち着いていて慣れたものだ。
司会の寛和さんが、三木の経歴を紹介すると軽やかに自己紹介の弁をふるい、本題に入った。

三木は

『情報を出していないところは存在していないも一緒』

の話しから始めた。

「テレビを見て、『美味しそう!』って思った次の瞬間にはパソコンを開いて、通販が出来てしまうんですよ。――――」

一瞬にして静まり返った会場に声が響き渡る。

「――――つまり、ほとんどの情報が『意味のある物』になりました。」

冒頭にもかかわらず、この台詞を聞いた後、軽い気持ちで参加した商店街のメンバーの顔が急に真剣な顔つきになる。

続いて『いい物をつくれば解ってもらえるの間違い』に話しを続けた。

「『情報』が一番伝わるのは『目』にしたときです。公共料金を払いにコンビニに行く、”小腹が減ったな、、”と思ったとする、その時、目の前に『パン』があってついでに買っていく――――

この時点で自分達のお店の『味』を伝えるチャンスが無くなります。待っていたら永遠に自分達の番は回ってきません。それでも『いつか』を待ちますか?」

ここまでくると、笑う人間なんてほとんどいない、みんな真剣に三木の話を聞いている。

自分も聞くのは二回目だが、何度聞いても背筋が凍る。自分達が思っている以上に事態は深刻なのかも知れない。

つづいて、PUSH情報 PULL情報との説明と続け、広告を年代によって考えるということを話した。

自分にとってもいい復習になった。

その後『フェイスブック』の使い方を教えてくれた。

『情報を出すことの大事さ』を最初に聞いているので、みんな真剣そのもので話しを聞いている。

それから約一時間。

一通り使い方の説明が終わり、質疑応答が終わって、三木は最後にこう言った。

「本日、皆さんにお渡ししたこの資料ですが著作権フリーです。
最後のページにアドレスも書いてあります。
このアドレスにアクセスするとこの資料と同じ物がPDFであがっています。
どんどんコピーして、他の人にも渡してください。」

翌日からさっそく小さな変化が訪れた。

商店街のみんながフェイスブックを使い始めたことで、流れてくる情報が少しづつだが増えた。

知らない情報が沢山入ってきて、フェイスブックをみるのが更に楽しくなってきた。

教わった『グループ』の機能を使い、『商店街のグループ』を作った。
連絡が桁違いに早くなって意見交換も活発になった。

ある日、出来上がったあんパンの写真を投稿すると、惣菜屋の武生が

<ここのあんパン最高!>
とコメントしてきた。
すると、寛和さんが
<ここらあたりで育った人間は、みんなこのパンを食べて育ってきました。自分は甘いものは好きじゃないですが、ここのあんパンだけは食べますね>
と書いてきた。

頼んだわけではない。自発的に書いてくれたのだ。

さらにそれを見た、知らない誰かが、
<今度必ず行きます!>と書いて来た。

三木はそれをみて、

「キーワードの二つ目『仲間』というのが解っていただけました?」
と言った。

そしてすぐその後に

「でもこれは一郎さんが、そしてご両親が、まっとうにご商売をしてきたからなんですよ。」

とも言った。

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