【第22話】『街バル』で街興し6


『街バル』で街興し6
ー情けは人の為ならずー

 『バル』の次の日の朝、ほとんど寝ないで朝からパンを作り、一呼吸ついたところでフェイスブックを広げると、そこには信じられない景色が広がっていた。

みんなが『バル』の事を書いてくれたのだ。
ニュースフィードの上から下まで、全部が食べ物の写真や、楽しそうにお店で食事をする写真で埋まっている。

自分の『友達』だけでもこの状態なのだ。他の人も含めたらかなりの数の『情報』が出たのは間違い無いだろう。

「おはようございます。」

と言って三木が入って来た。自分のフェイスブックの画面を見せると、

「ふむ、昨日、フェイスブックやをやっている人が、何人いらっしゃったか正確なところはわからないので、はっきりとしたことは言えませんが、私が見た範囲ではかなりの方がスマホを持ってらっしゃいましたし、そもそもがフェイスブック中心に集客したイベントなので、300人程度は出ていたと思われます。1回の投稿で、1人平均30人ほどに『情報』が届くと仮定すると、、、まあ、実際は多分もっと届けられると思いますが、一回の投稿で9000、チケットは5枚綴りなので、もし5軒全て投稿すれば45,000の『情報』が出たことになります。

たった一日で、しかも全部この町の小さなお店の『情報』で、さらにそれが『捨てられにくい情報』で4万5千です。『ツイッター』も含めたらもっとでしょうし、あと数日すると『ブログ』を書いてくれる人が出てくるでしょう。思った通りですね。」

「なんだよ解ってたのかよ。」

「もちろんです。『まだ終わらない』って、言ったじゃないですか、、ツイッターの時にお話ししましたが、SNSの特性として、『情報』を出すことを一人に依存するスタイルは正しくありません。一人だとよほど影響力の高い人間以外、伝えられる人数も少ないし、伝えられる相手も同じになってしまうので意味がないのです。大事なのは分母なのです。『情報』を発信する人を増やす事、分母を多くすることで、出る『情報』の量を増やすことができます。今回は三つ目のキーワードである『共感』もおこすことができたので、かなり『情報』が広がりましたね。」

「共感?」

「はい、皆さん無意識にやってらしたと思うんですけど、参加店を集めるところ、撮影にかけずり回っているところを、ずっとフェイスブックにアップしていたじゃないですか、参加店は中々集まらないし、チケットは売れないし、かなり苦労されてましたよね。
しかも全員ボランティア。チケットが売れなかったら自腹を切るしかない。それでもやりたい。それを見ている人たちは、そのストーリーを一緒に追っていったわけですね。今回『街興しがしたい』っていう皆さんの思いが周りに伝わって、お客様が『共感』してこのイベントに参加してくれました。結果、参加人数が増え、“分母が”、この街の情報を発信する人が増えたというわけです。」

 全然気づいていなかった。

「この『共感』って狙ってできるものではないんですよ。

人の気持ちですからね。広告のプロか、催眠術師でも無い限りまずできない。
以前お話しした『情報が届く・記憶する』これを今回の『バル』に当てはめると、1番、その情報に【連続して触れる。】今回はフェイスブックを通じて沢山の方面から情報に連続して触れました。これは以前お話ししたとおり。

2番、その情報に【強烈に魅力を感じる。】これも以前お話ししたとおりですね。飲食のイベントなので、魅力的だったと思います。

3番、その情報を【発信している人に興味がある】も以前お話ししたとおり、基本知り合いと『友達』になっているわけですから発信している人に魅力があるというのも適応されます。

そして、ここから先がが以前の話ではなかったところ、 4番、その情報に【関連した思い出がある・できる】人は楽しかった記憶とワンセットで覚えた場合は、記憶して忘れなくなります。

次回の『バル』の集客はもう少し楽になると思います。お客様の中に『楽しかった思い出』が残っていると思いますので、もう『バル』というイベントは記憶されたと思います。

5番、その情報に【感動する。】6番、その情報に【共感する。】今回の『バル』でスタッフの無償の行動に『感動』し、フェイスブックを通じて、スタッフの行動を追体験する。

みんなの『街興しがしたい』という気持ちに『共感』がおこり【記憶】されました。こうやって見ると『情報』が『届いて』、【記憶】される要素が多いと感じられませんか?」

 言われてみれば確かにその通りだ。

「そして今回のこのイベントは小売店の『問題』もクリアにしています。【食べてもらう順番が遅くなっている】の問題には、このイベントに参加した店舗しかチケットは使えない。

必然的に自分達の店舗が選ばれる率が高くなる。【食べてもらう順番】を早めることができました。セールの問題の時に話した。【減る利益を人数でうめるビジネス。お得情報の伝達力が弱いという問題。】ここもクリアになっています。

今回のイベントは複数の店舗で同時にセールをやるようなものなので、お得情報としての伝達率が高い。沢山の人を出すことができました。

実際、『柳原ベーカリー』も一日で60人以上のお客様が来たわけですよね。いつもの数倍です。金額も安くなっていますが、安く売っても薄利多売の原理が働いて、僅かでしょうが、ちゃんと利益がでていると思います。

それでいて食べてもらう人も増やす事ができた。そして、何よりも、イベントが始まるまでの一郎さんの投稿した文章や写真。それを通じて一郎さんの【人となり】が解ってもらえたと思います。

これは【小売店の最大の差別化ポイント】普通、そのお店の店主の人となりって、お店に何回も何回も通ってもらってやっと解ってもらえるものなんですよ。それを早めることができました。ねっ、ちゃんと苦労した分ちゃんと自分達に返ってきています。『情けは人のためならず』ですよ」

 三木は笑いながら言った。

なるほど、、結局三木の手のひらの上ということか、、、しかし、『街興し』がしたいと無我夢中でやったことだが、こうやって理路整然と整理されると、自分達の為にもなっている。

やって良かった。どこの団体からの援助もなく、ただフェイスブックで集まった仲間が行ったイベント。

この街で商売をしている『参加店舗』がなければできない。この街に住んでいる『お客様』がいないと成り立たない。
街のみんなの協力がないと出来ないイベントだ。それが成功した。ほんの少しだけだけど、街って自分達の力で変えられる、そう思わせてくれるイベントだった。やって良かった。心の底からそう思った。